
「創造の先の世界」
作詞・作曲・編曲・プロデュース
伊橋成哉
浜崎あゆみ、NEWS、AAA、倖田來未、橘慶太、ソナーポケットなど誰もが知っているであろうトップアーティストの作曲を手がけている作曲家の伊橋成哉さん。歌モノの作曲のほかにも作詞やCM音楽、映画の劇中歌など幅広く活躍している。
綺麗で優しい曲からロック調の曲まで、様々なジャンルの作品をつくりあげる。今回は、今に満足することのないストイックさと、独特のミステリアスな雰囲気を持つ伊橋成哉さんの「意識の高さ」にスポットを当ててみた。
作曲家になりたかったのって人生の第二志望の夢だから
伊橋さんは中学生のとき、先輩がバンドをやっているのを見て、”モテそうだから”というヨコシマな気持ちでギターをはじめたのが音楽に触れたきっかけだったという。25歳まではバンド活動していたが思うような結果が出ず解散。当時のバンドメンバーに「お前は曲がいいから音楽続けたほうがいいよ」と助言をもらい、バンドの音源を某メーカーに送ったところ作曲家としてキャリアが始まった。そんな伊橋さんに作曲家のやりがいについて聞いてみた。
ー作曲家のやりがいは何ですか?
伊橋:やりがいですか? これからもっと増やしたいです。
ーこれから?
伊橋:うん、今の所はまだ限定的だと思います。作曲家になったのは人生の第二志望の夢だから。もともとバンドをやりたくて、誰かに曲を提供するっていう仕事は第二志望の夢。だから、もっと突っ込んで第1.5志望の夢くらいにはなりたいなと思ってます。プロの作曲家でも、最初から誰かへ提供したい! って音楽をスタートさせた人って3割もいないと思いますよ。
ー1.5志望の夢というのはどういうポジションですか?
伊橋:作曲家ってすごく匿名性が高い仕事でもあったりして。
例えばヒット曲書いても、曲自体は知られているけど誰が書いたか世の中はそんなに興味なくて。
作曲家だけの人と、表に立って顔がちゃんと知られてる、文化人的な要素も持ってる人って別物で。
ボクは後者の見え方を少しずつでも広げていきたいと思ってます。
一般の人のアンテナが3本がMAXだったら、
クリエーターって、5本とか8本立ってなきゃダメなのね
伊橋さんはクリエーターとして常に面白そうなことにアンテナを貼ることを心がけていると話す。
ボク、音楽とか人間の営みには、”無くてはならないもの”とは思ってなくて。
東日本大震災のときに、それは音楽をやってる人がほとんど感じたと思います。
”今音楽なんかより 米とパンのほうが大事だろ!”みたいな。無くても生活出来るものにお金を出したいって思わせるってことは、正気の沙汰じゃないとずっと思ってます。
例えば携帯のアンテナ、3本がMAXだったとしたら、クリエーターは5本とか8本立ってなきゃダメで。てことはそのくらい他人の言動がすごく過敏な生活を強いられる訳です。
テレビで例えると、一般家庭のアンテナが地デジしか映らないのに対して、クリエイターは100チャンネルくらい映るアンテナだから。そうするとポジティブな情報も入るけど、ネガティブな情報も受けやすくなっちゃうんです。
そういう意味でもクリエーターって正気の沙汰じゃ出来ないっていうか。普通に生きてたら12チャンネルくらいでしか仕事はできないから。自分が興味を持ったことや面白そうって思ったことはは実際に行動としてやってみるようにしてます。引き出しを増やしながら、振り幅を広げる努力をしていかないと、
人間てどんどん楽なほうに行く気がするんです。

secret / 浜崎あゆみ (2006 avex)

SDN48 / NEXT ENCORE
(2011 ユニバーサルミュージック)
濁っちゃうから、あんまり粘んないようにしてる
ー作曲家になるまでに辛かったことはありますか?
伊橋:なれたのはすんなりなれたけど、そこから2年半掛かりました、初めて誰かに曲を提供できるまで。それこそ、音楽だけで食べれるようになったのは5年かかってしまった…...。
ー作曲が一本筋じゃいかないときは何時間も何日もかかったりしますか?
伊橋:早いタイプであんま粘らないかもしれないですね。1時間くらいしか粘らない。
ー天才ですか(笑)。
伊橋:ちがうちがう(笑)。諦めてるっていうか。この手の答えはあらゆる創り手の経験した成功論だと思っていて。"作品が出来た!"ってなって、その先推敲を重ねて評価をされたクリエーターはきっとそれが正しい方法だと思う筈で。でもボクは、パッと出したものから推敲を重ねるとどんどん劣化するタイプみたいで。
クライアントから「最初が一番良かったですね~」と十中八九言われてしまう。
ー最初の直感でつくった作品がいいということですか?
伊橋:いいっていうか一番ドライにゴールが見れているんだと思います。時間が経ったり練っちゃうと、”あの人あんなことも言ってたよな”、”あの担当者の好きな音楽性は”などなど、邪念がが入っていってしまう。本当は青を求められてるのに”赤も好きって言ったな”って作品がいつの間にか紫になっちゃってたりする。
世の中の青って言うのは、それは青でしかなくて。
だから怠けてるんじゃなくて、濁っちゃうのを嫌っているんです。

ETERNITY / 倖田來未 (2010 avex)

Song for you ~明日へ架ける光~
/ソナーポケット(2015 徳間ジャパン)
僕まだ富士山1合目ですよ
なりたくても簡単にはなれない世界で音楽で食べていることには感謝していると話すが、現状に満足しているかというとそうではないという。作曲家として数々の仕事をこなし多忙な日々を送っているように見える伊橋さんの目指す場所はいつもその想像の先にあった。友人からも”そんな上ばっかり見てると首疲れるよ”と言われたという。
ーたくさん作曲もしてるし有名な方に楽曲を提供をしてるけど、もっと上を求めていますか?
伊橋:上行きたい! 絶対行きたいです! 僕まだ富士山1合目です。
ーえーー! びっくりです。
伊橋:本当に1合目なんです(笑)。昔バンドやってて、そのメンバーと今でも交流あるんだけど、彼らが
”あいつ凄くなったんだよ!”って言ってもらうには全然キャリアとして足りないと思ってて。
そこが1合目と感じる大きな所以です。
数々の作品を残しているのにも関わらず、原点を大切に、自分の目標は常に高いところに置いている伊橋さんは冷静にそしてしっかりと常に自分の創造する先の世界を見つめていた。作曲家「伊橋成哉」の目指す頂上はまだまだ遠い。
(2016.4.10 都内某所)
取材・ライター:松元加奈
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Profile
中学校 2 年生の時に友人に誘われてギターを始める。日本大学芸術 学部演劇学科を卒業後バンド活動を開始。 バンド活動の傍ら楽曲制作にも力を入れ、2004年に hitom(i Avex) 26作目のシングルとなる『ヒカリ』c/w「 Steady 」に楽曲提供したこ とから Avex と業務提携し作曲家に転向。2006年にリリースされた浜 崎あゆみの 8 枚目のアルバム『 Secret 』「 It was 」など、 Avex、ジャニーズアーティストを中心に楽曲を多数提供している。 現在アーティストへの楽曲提供以外にも映像音楽や、バンド、シンガー ソングライターのプロデュース、新人開発を精力的に活動中 。